行政書士の仕事は「きつい」という話を、聞いたことはありますか?きついといっても、精神的にきつい、肉体的にきつい、難易度が高くてきついなど様々な意味を内包します。これから行政書士を目指す人にとっては、どんな風にきついのか気になりますよね?
行政書士の仕事は、本当にきついのでしょうか。この記事では、行政書士はなぜ「きつい」仕事といわれるのかまとめました。
1 行政書士はきつい?
行政書士の仕事がきつい、と聞くと、「稼げない」や「3年以内に7割が廃業する」といった噂が脳裏に浮かびます。稼げなければ生活できませんし、せっかく難関国家資格試験である行政書士試験に合格しても、3年以内に廃業するのでは頑張る意味が見出せません。
行政書士の仕事が「きつい」といわれるのには、どのような理由があるのでしょうか?
⑴ 合格後も勉強しなければいけない
行政書士として働き始めたら、プロとして100%完璧な仕事をしなければなりません。また、顧客と円滑にコミュニケーションできる能力も求められます。
行政書士に限った話ではありませんが、一人前になるには、試験に合格した後もかなりの勉強量が必要になります。実は行政書士試験は、試験範囲と実務に必要な知識との間に、大きくギャップがある試験の一つだといわれています。また、開業時に必要な知識の量は、試験合格に必要な知識量の数倍ともいわれます。合格した後も、継続して勉強していく必要があるのは明らかです。
⑵ 顧客獲得が大変
先輩行政書士の中には、事務所を上手く軌道に乗せて年収1,000万円以上稼ぐ人もいます。そのレベルに至っているということは、顧客獲得に成功したことを意味します。
ご存知のように、行政書士には「企業内行政書士」という登録区分がありません。試験合格後に企業内行政書士として一般企業に就職するという選択肢がないため、人脈もないままに独立開業する行政書士が多いのです。営業には向き不向き、好き嫌いがありますので、顧客を上手く獲得できない行政書士も出てきます。営業が上手くできないために廃業に追い込まれるのは、大変辛いことでしょう。
⑶ 業務が多岐に渡る
行政書士の取り扱う書類の数は、10,000種類以上ともいわれます。また、行政書士が請け負うことのできる業務は幅広く、説明するのが困難なほどです。
行政書士は申請書類の作成・提出の代行のため、実に多くの場所に赴きます。例を挙げれば、営業許可申請のため保健所へ、深夜営業の届出のため警察署へ、といった具合です。
OSSとは、自動車保有関係手続きをワンストップで実現するために始まったサービスのことです。OSSができる前の行政書士は、自動車の検査登録のため国土交通省へ、保管場所証明ため警察署、税は国や都道府県へと、それぞれに赴いていました。申請業務のデジタル化がすすめば、もちろんこの作業は省力化されますが、行政書士はこのように、多種多様な書類の作成・提出にうごきまわる仕事なのです。
2 仕事がなくてきついケース
行政書士について語る場合、ネット上にはそもそも持っている「きつさ」よりも、「仕事がなくてきつい」という話が多いように感じられます。頑張って働いても食べて行けないのでは、きついに決まっています。
「行政書士は食べていけない」という主張をネット上で探し、まとめてみました。
⑴ 仕事がない
仕事がないという行政書士の意見を挙げてみましょう。
- 他に収入源(不労所得)がない人は、やるべき仕事ではない。
- 開業しても仕事が来なかった。
- 実務経験と人脈もそれなりにあったが、仕事が来なかった。
- 社労士や税理士のような顧問契約が取れなく、スポットばかり。
- 報酬規程がなくなってから、報酬が下がってしまい食えない。
確かに、行政書士業務の報酬規程がなくなったことは事実です。しかし、いまだに報酬のベースとして活用され続け、スタンダード化しているという意見もあります。
⑵ 経費がかかる
行政書士として働くためには、登録費や行政書士会への入会費・会費などの初期費用がかかります。事務所を借りたりすると、固定費がさらに上乗せされます。いつまでたっても顧客が獲得できない人は、これら初期費用を回収できないことになります。
また先述の通り、行政書士として1人立ちするための勉強にもお金がかかります。一説によると、成功者はそこまで行くのに500万円前後投資をしているとのことです。
⑶ 他士業の業務に接触してはいけない
独立開業後すぐに、他士業資格の勉強を始める人がいます。しかし、スタートアップの時は堅実に目の前の仕事に没頭すべきです。まことしやかにダブルライセンスを礼賛してくるセールストークがありますが、二兎を追う者は一兎をも得ずになり兼ねません。
先輩行政書士によると、司法書士や社会保険労務士になるための勉強は、残念ながら、あまり行政書士の実務には役立たないそうです。
行政書士が他士業の独占業務に接触することを「非弁行為」「非司行為」「非社行為」などといいます。これは、行政書士で開業しながら司法書士や社労士などの勉強をしている人が犯しやすい行為だといわれています。顧客のために良かれと思っておこなったとしても、バッジ剥奪となる問題行為です。
「今の世の中、行政書士だけではダメだ」「マルチプレーヤーにならなければ競争力がない」と考える人は多いです。しかし、肝心の行政書士としての本業がお粗末では、稼ぐのは夢のまた夢ではないでしょうか。
3 仕事がありすぎてきついケース
次は、こなしきれないほどオファーがきて仕事がありすぎて「きつい」行政書士のケースを取り上げます。「嬉しい悲鳴」というヤツですね。
⑴ 仕事が来すぎて困る
行政書士の業務範囲は他士業よりも圧倒的に広いので、仕事がたくさん舞い込み対応しきれないこともあります。また、大抵顧客との付き合いはスポット契約で終わらず、更新したり法改正があったりと長い付き合いになるようです。
まともに営業努力をしていれば、土日も働かないといけないほど仕事が来るようです。主軸業務の種類によっては、繁忙期と閑散期が極端に違うケースもあります。経審・入札の仕事が主軸業務の場合は、冬が忙しく、夏は暇だとのこと。忙しい冬は夜も昼も無く働かないと期限に間に合わないほどだそうです。
「開業以来、依頼や相談の電話がない日は1日もない」という行政書士もいました。
⑵ 新分野や電子化で業務は拡大の一途
行政書士の業務範囲は、広がり続けています。現在はコロナ禍により足止めされていますが、入管業務では新在留資格が設けられるなど、年々外国人受け入れが緩和されているのです。
➀ 新分野が続々登場
行政書士業務の新分野といえば「民泊」「ドローン」を思い浮かべるでしょう。コロナ禍の影響で今は停滞していますが、民泊も行政書士が届出業務を担当します。届出は、許認可申請のようなイメージです。届出の時は図面を書いて提出するなど、複雑な書類の作成が義務付けられているため、行政書士への依頼が増えたのです。コロナ禍を過ぎ越した後、また盛況を見せる分野であることは間違いありません。
ドローン申請には専門知識を要するため、行政書士への依頼が多いのです。このようなニッチな業務をマスターすると、他の行政書士との差別化が図れるのでおすすめです。
➁ 電子化にも対応
政府が推進する電子政府化の一環として、行政書士業務にも電子化が実施されています。紙ベースで仕事をするイメージのある行政書士ですが、最近の行政書士はITオンチでは務まらなくなってきています。例えば、前述のOSSや民泊、ドローンも、基本は電子申請でおこないます。
法人設立に不可欠な「定款」も電子定款に切り替わり、印紙代4万円が不要になるというメリットが加わりました。
このように行政書士の仕事は、どんどんシステムを介しておこなうようになります。電子申請をマスターすれば、ITアレルギーの顧客も取り込むことができます。
⑶ 「補助者」の雇い方が分からない
仕事がこなしきれないほど舞い込むようになると、今度は誰かを雇わなければならなくなります。1人だけで業務に対峙しても収入には限界があるので、稼がないともったいないですよね。「補助者」を雇用するにしても、どのような人にすれば良いのか悩む行政書士は多いようです。
4 行政書士が廃業しないためには、どうすれば良い?
事務所が軌道に乗り、こなしきれないくらい仕事が舞い込む行政書士もいます。しかし一方で、独立開業行政書士の7割が3年以内に廃業するという、恐ろしい事実があります。そのような不幸な顛末を迎えないためには、どうすれば良いのでしょうか。
⑴ 行政書士で成功できない人は何をしても成功できない
仕事が来ない行政書士の特徴として「独立してすぐに他士業資格取得を目指す人」を挙げました。ダブルライセンスになれば今と違って儲かる、という考えがあってのことでしょうが、成功者は、皆「行政書士で成功できない人は何をしても成功できない」と口を揃えます。
行政書士には、行政書士法で守られた、他が侵害できない権限(独占業務)が与えられています。加えて独占業務以外にも豊かな選択肢があるというのに、仕事が取れないというのは、やる気と努力が少なすぎると言わざるを得ません。
先述の通り行政書士は、他士業との業際に常に注意を払わなければいけませんが、逆に他士業から仕事を頂けることも多いのです。顧客や連携する他士業先生から、信頼されて任された業務を遂行するためにも、本業における能力を常に磨きたいものです。
⑵ やりがいを見出す
仕事が来すぎて困る行政書士の中には、「この仕事にはものすごいやりがいがある」と感じている人が多く見られました。
例えば、許認可申請は、数ある士業の中で唯一スタートアップに携われる仕事です。司法書士は登記で、社労士は就業規則作成などで会社設立に携わりますが、許可の段階から携われるのは行政書士になります。許認可無くして仕事に着手することはできません。
また、外国人の在留資格取得は、この外国人の婚姻、就学、就労などに関わります。帰化申請も多くの行政書士が担当する仕事ですが、行政書士の対応次第で、顧客である外国人の「日本人観」が変わってしまうでしょう。
どんな仕事でも、やりがいを見出せるかどうかはその人次第です。
⑶ デジタル化に対応する
行政書士には紙の書類を扱う仕事というイメージがあります。しかし、今後はPCから申請作業をおこなう人というイメージに変わっていくでしょう。
デジタル化は、作業効率を上げ生産性を向上するためには欠かせない施策です。また、今般の新型コロナウィルス感染拡大のような、公衆衛生の観点からもデジタル化は価値を高めました。国際化も、インターネットなしには実現されません。
仕事を安心して頼める行政書士になるためには、電子申請についても良く勉強し、広く対応できるようになっておきましょう。
5 サマリー
行政書士の仕事がきついといわれる理由が、お分かりいただけましたか?「仕事がなくてきつい」と嘆く側ではなく、どうせなら「仕事がありすぎてきつい!」と叫ぶ側になりたいですよね?この記事が、あなたがそのような行政書士に近付くためのヒントになれば幸いです。
6 まとめ
- 行政書士には仕事がなくてきつい人と、仕事が来すぎてきつい人がいる。
- 行政書士には勤務行政書士がないので独立開業するケースが多く、営業力が成功の鍵になる。
- 行政書士の業務範囲は幅広いので、試験合格してからはもっと勉強しないといけない。
- 社労士や税理士のように顧問契約が取れないし、報酬規程がなくなったから食えないという人もいる。
- 開業後、行政書士だけではダメだと考え他士業資格取得を目指して、本業を疎かにする人もいる。
- 新分野「民泊」「ドローン」や、電子化にも素早く対応することが大事。
- 仕事にやりがいを見出すことが大事である。