行政書士試験の出題科目である行政法は、他の科目に比べて重要度が高い科目といえます。
出題数が圧倒的に多いですし、合格後、実務についたときにもかなり関わってくる分野なのです。
その中にある行政争訟制度は難易度が近年上がっている箇所で、判例の出現頻度も高いため、しっかり押さえておきましょう。
1. 義務付け訴訟
行政争訟制度のうち、行政事件訴訟の1つに義務付け訴訟があります。
これは、行政庁が一定の処分または裁決をしなくてはならないにも関わらずしないとき、行政庁にその処分・裁決を求める訴訟のことです。
不作為の違法確認訴訟の裁決はあくまで確認に過ぎないため、「その不作為は違法ですよ」という宣言しかできませんが、義務付け訴訟は違法性の確認だけでなく、不作為庁に対して「処分・裁決をしろ」と積極的な命令ができる訴訟なのです。
義務付け訴訟は、単純に行政庁が一定の処分をすべきなのにしない「1号」と、行政庁の一定の処分・裁決を求める申請や審査請求がされた場合に当該行政庁がすべき処分・裁決をしない場合の「2号」に分けられます。
前者は自分以外の第三者に行政権限の行使を求めることが典型ですが、後者は許認可の申請や生活保護の申請が拒否・無視された場合が典型です。
この訴訟がなされたとき、裁判所は「義務付け訴訟にかかる処分・裁決がなされないことで生じ、償えない損害を避けるために緊急の必要がある」「本案について理由があると見える」という、2つの要件が満たされていれば、裁判所は申立てにより決定を以て仮の義務付けを命じることができます(公共の福祉に重大な影響を及ぼしそうなときにはできません)。
2. 差止め訴訟
義務付け訴訟や確認訴訟は「やらなきゃいけないことをしない」ことに対する訴訟ですが、差止め訴訟は「すべきではないのにもしようとしている」場合にするものです。
結果としては義務付け訴訟の逆になり、「処分・裁決をするな」という、仮の差止めを命じられます。
このように、法律の勉強では似ているようで少しずつ異なるということが頻繁に出てくるため、比較しながら取り組むことが必要といえます(リンク)。
ちなみにこの場合でも、何でもかんでも良いわけではなく義務付け訴訟同様「当該処分・裁決によって償えない損害が生じ得ることに対して緊急の必要がある」「本案について理由があると見える」という条件を満たさなくてはなりませんし、処分・裁決がされないことで公共の福祉に重大な影響が及ぼされるおそれがあるときは不可能です。
3. 当事者訴訟
法律に関する争い事は、大きく公権と私権を巡るものに分けられます。
このうち私権は民事訴訟において争われ、民事では国民と国民、つまり対等な関係にある者同士が戦うのですが、公権の争いは国や地方公共団体という公権力と国民・住民間のものになります。
しかし当事者訴訟はこの両方の性質を併せ持っている、少し特別な訴訟です。
これは「国」と「国民」という、公権をめぐる争いでありながら、それらを対等な当事者同士で扱う、本質的に民事訴訟と同じ性質を持っています。
この訴訟は、対等な当事者間の法律関係の確認または形成する、処分・裁決に関するものです。
公権に関わる訴訟であるため、行政事件訴訟法によって職権証拠調べや行政庁の訴訟参加等が認められるようになり、行政事件訴訟の一つとされるようになりました。
当事者訴訟はさらに「形式的当事者訴訟」と「実質的当事者訴訟」に分けられ、前者は争う当事者のうちどちらか一方を法令の規定に基づき被告とするものであるのに対し、後者は当事者間の公法上の法律関係に関する確認の訴えや、公法上の法律関係に関する訴訟なのです。
たとえば、公務員が免職処分の無効を争おうとするとき、行政庁に対して免職処分の取消訴訟をしたところで根本的な解決は見込めないでしょう。
本当に問題を解決したいなら、公務員としての身分や地位自体を確認したり、未払い給与の支払請求をしたりということが論点になります。
が、これは通常行われる抗告訴訟でなく当事者訴訟で扱うべき問題とされるため、行政主体との実質的当事者訴訟になるのです。