行政書士試験で出題される行政法では、行政庁の権限を他の行政機関に代行させることが認められています。
権限の代行には、『権限の委任』『権限の代理』『代決・専決(内部的委任)の3つがあります。
1 法定代理
権限の代理のうち、一定の法定要件が発生することで他の行政機関が法律上当然に代理することになる場合を『法定代理』といいます。
法定代理には、普通地方公共団体の長に事故があったり欠けたりしたため副知事や副市長村長がその職務を代理する『狭義の法定代理(地方自治法152条第1項)』と、内閣総理大臣に事故があったり欠けたりした場合にあらかじめ指定されていた国務大臣が職務を代理する『指定代理(内閣法9条)』があります。
授権代理同様、法定代理もまた、権限の所在は移りません。
しかし法定代理では、当然に法律の根拠が必要にされるという点があるほか、代理庁は被代理庁の全てを代理し、その行使は被代理庁の指揮監督下にあるものではないという差異があります。
そのため、法定代理による責任は代理庁に帰属し、被代理庁が代理庁の行為に責任を負うことはないのです。
法定代理の行為に対して抗告訴訟がなされた場合、被告は代理庁が所属する行政主体となります。
2 専決(代決)
『専決(代決)』では、行政庁がその補助機関に事務処理の決定を委ねます。
しかし、外部に対する関係においては、本来の行政庁の行為として法的効果が生じる点に気をつけましょう。
具体的には、本来大臣が発すべき通達を事務次官が決裁して大臣名義で発する依命通牒や、住民票の証明事務を担当職員が市町村名義で行っていることがこれにあたります。
権限の委任と異なる点としては、内部的には権限の所在が変わっているということです。
しかし外部的にはあくまで本来の行政庁の名と責任でなされるため、法律の根拠や公示の必要はありません。
専決(代決)は、単なる内部的な事務処理の分配にすぎないのです。
3 国の行政組織
日本という国単位で見た場合の行政組織は、『内閣』『内閣府』『省』『委員会・庁』が挙げられます。
内閣は、内閣総理大臣と14名の国務大臣(3名まで増員可)で組織される、行政権の主体です。
各大臣は主任の大臣として行政事務を分担管理します。
無任所大臣として、行政事務を担当しない大臣を置くことも可能です。
内閣の職務は全会一致の閣議により、閣議は非公開で行われます。
内閣府は、内閣総理大臣を長として内閣に設置される機関です。
内閣の重要政策に関する内閣の事務を補佐することが任務であり、副大臣および大臣政務官が置かれています。
内閣総理大臣には内閣府令を発する権限があり、内閣の外局として公正取引委員会や国家公安委員会、金融庁、消費者庁などがあります。
国務大臣を長として内閣の統轄下に置かれる、それぞれの行政事務を司る機関を省といいます。
各省には副大臣や大臣政務官も設置され、各省大臣はその主任の事務に関する省令の制定が認められています。
さらに、内閣府または省の外局として置かれるものとして、委員会および庁という組織がいます。
委員会は府や省の所轄の下に置かれ、権限行使の独立性が保障されえいます。
合議制がとられており、委員会および各庁の長官には、法律の定めるところによる規則を制定する権限があります。
4 公物
国や地方公共団体によって、直接に公共の目的に供される個々の有体物を『公物』といいます。
道路や河川、公園などのように一般公衆の共同使用に供される『公共用物』と、官公署や公立学校の建物などといった、国または地方公共団体が直接使用している『公用物』があります。
公物は公共のものであるため、法律によって私権の設定が制限・禁止されることがあります。
これを『不融通性』といいますが、判例では「黙示の公用廃止」がある場合は公物が取得時効の対象となり得ることも認めています。
公物は誰でも自由に使用出来る『一般使用(自由使用)』と、行政庁の許可を得れば使用出来る『許可使用(特別使用)』といった使い方に分かれます。
また、道路に電柱を立てるなどのように独占的排他的権利を継続して設定する場合は『特許使用』、民間業者が職業を経営するなど役所の建物の一部の使用を認める『目的外使用』もあります。